お酒と健康


お酒と健康

日本酒のエキスがガン細胞を抑える!

お酒と健康

 食品と病気の間には密接な関係があることはよく知られています。食品の摂り方によって、病気にかかりやすくなったり、逆に病気にかかりにくくなったりします。これはお酒にも当てはまることで、適量のアルコールは胃液の分泌を促進し、血液の循環をよくして心身をリラックスさせてくれます。また、善玉コレステロール(HDLコレステロール)を増やして動脈硬化を防ぎ、心筋梗塞などの心疾患を予防する効果もあります。

 反対にアルコールの過飲、例えば一日に清酒換算で3合以上を連日飲み続けると、肝障害が起きやすくなります。欧米ではアルコール消費量と肝硬変死亡率との間にはかなり高い相関があることがわかっています。WHO(世界保健機関)によると大量飲酒者は「日本酒で5合半、ビール6本、ウィスキーダブル6杯以上を飲む者」 となっています。

 また、アルコール消費量とガン死亡率との関係を調べたSchwarzらの研究(1966年)によると、食道ガン、咽喉ガン、骨・結締組織ガンについては酒消費量が多いほどガン死亡者は多くなっています(正の相関)。ところが、他の多くのガン、つまり小腸、直腸、気管・肺、前立腺、皮ふガンなどでは、逆に酒消費量が多いほどガン死亡者は少なくなっているのです(負の相関)。



日本酒を飲むと肝硬変になりにくい

 さて、ここに興味深い調査結果があります。日本酒を多く飲む地域では、他の種類のお酒を多く飲む地域に比べて肝硬変になる人が少ないのです。

もともと、日本の肝硬変・肝ガン死亡率は世界的にみて低い方で、国民1人あたりの総アルコール摂取量も少ないのです。日本の肝硬変のおもな原因は肝炎ウィルスで全体の約60%とされ、アルコールが原因のものは全体の15%程度に過ぎません。これはアメリカで肝硬変の原因の60〜80%が飲酒とされているのと対照的です。

 アメリカ防疫センターの研究(92年)によると、アルコール濃度10%以上の酒にはA型肝炎の感染に対する予防効果があることが明らかになっています。

 日本での肝硬変による死亡率(男子)は、1960年の12.4(人口10万人に対し)から次第に増え、70年が17.5、79年には21.1とこれまでの最高になりました。その後は減少し、86年に19.7、89年には18.9と低下しています。これを都道府県別にみると明らかに地域差があり、男女とも西日本の死亡率は高く、東日本では低いのです。これはなぜでしょうか。

私は都道府県別の肝硬変標準化死亡比と酒類消費率との関係を調べてみました。すると、日本酒ではその消費が多いほど肝硬変死亡者は少ない(負の相関)のに対し、逆にビールやウィスキー、とくに焼酎ではその消費が多いほど肝硬変死亡者は多い(正の相関)ことがわかりました。東北地方を中心に日本酒を多く飲む東日本では、焼酎などの蒸留酒の消費の多い九州などの西日本よりも肝硬変・肝ガンの死亡率は低かったのです。このように、同じアルコール飲料でも日本酒と、その他の酒類では効用に違いがあります。

 
市町村別
肝硬変標準化死亡比分布図
  市町村別
肝ガン標準化死亡比分布図


日本酒にはガン細胞の増殖を抑える物質が含まれている

 そこで、日本酒にはどのような効果を持つ物質が含まれているのかを調べてみました。

 まず、日本酒を減圧濃縮して6段階の濃度試料を作り、比較のためにウィスキーとブランデーからも同様の試料を作りました。どちらもアルコール分は除かれています。

ちなみに、醸造酒である日本酒には15〜16%のアルコール分のほかに、有機酸、糖分、アミノ酸、ビタミンなど100種類以上の微量栄養素が含まれ、これらが日本酒の風味をつけています。それに対してウィスキーやブランデーなどの蒸留 酒はアルコール濃度が高く、逆に微量栄養素はゼロかごく微量しか含まれていません。

 こうして作った日本酒の試料の入った培養地に、あらかじめ培養しておいたヒトの膀胱ガン細胞や前立腺ガン細胞、子宮ガン細胞を24時間後、試料を含まない培養地に移して観察しました。その結果、ガン細胞は3種類とも萎縮、死滅したのです。64倍に薄めたエキスを加えての実験では90%以上が、128倍では約半数の細胞が変形・死滅しました。

一方、同様に、大腸菌や赤痢菌、サルモネラ菌など9種類の細菌に対して実験してみると、4倍に薄めた試料で細菌の発育が阻止され抗菌作用もみられました。

一方、ウィスキーとブランデーから作った試料をガン細胞や細菌に加えても、このような効果は得られませんでした。

日本酒の中のどの成分にガン細胞を抑える効果があるかを調べるため、日本酒からアミノ酸や有機酸、糖分などの低分子量成分だけを抽出した試料と、タンパク質や酒酵母など高分子量成分だけの試料とを使って実験してみました。この結果、アミノ酸・有機酸・糖分などを含む試料だけにガン細胞の増殖を抑制する効果があることもわかりました。

日本酒の特定のどの成分が制ガン作用を持っているのかは大変に興味あることでしょうが、ただちにがんの治療にむすびつけることはできません。

ともあれ、日本酒にガンの増殖を抑制する何らかの物質が含まれていることは事実として知っておいていただきたいと思います。

ほかに、酒造りに用いる麹菌から分離精製した物質が、ヒトのガン細胞の増殖を抑えたとう海外からの実験報告もあり、これが日本酒に含まれる成分と類似のものかどうかの確認も待たれるところです。



楽しみながら健康作り

もともと日本の飲酒習慣は晩酌が中心でしたし、日本酒は食事とともに楽しむ食中酒という点で、アルコール濃度の高いブランデーやシェリーなどとは違います。長い伝統をもち、日本の風土に育まれてきた日本酒は、その特性を生かした飲み方 をしたいものです。

「酒は百薬の長」といわれますが、その中でも、多くの種類の栄養分を含む日本酒には様々な疾病予防の効果があります。楽しみながら適度に飲んで、健康づくりに役立てていただけたらと思います。




未定 滝沢行雄(たきざわゆきお)先生 プロフィール
1932年生まれ 長野県出身 医学博士
国立水俣病総合研究センター所長
秋田大学名誉教授
国際疫学学会などに所属



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